fc2ブログ
2020/03/18

【のん式、偽物論】ホンモノとは何か?【腕時計と偽物1】

「偽物でよかったですね。形見と、ずっと、一緒にいられるじゃないですか」

偽物=悪、としか考えなかった筆者には、衝撃的だった。
(ついでに、筆者より、随分若い人から言われた言葉という意味でも、衝撃的であった)


冒頭の、会話は、
筆者の父方の祖父の形見分けに端を発する。
形見分けで受け取った品の中に、一圓(円)と刻まれた銀貨があった。
1円銀貨、主に明治時代に作られた銀貨である。
市場価格で、安くても1万円、レアリティや状態によっては数十万円にもなるらしい。
もちろん、本物なら。

簡単に真贋を調べられる方法として、重さを測ってみると・・・

本物とは、大幅に、ちがう。

つまり、銀以外の材料による、

偽物。

たしかに、これが偽物だと思って観察すると、
古銭の門外漢の筆者にも、モールドがかなり、甘く見える。
どうも、アジア圏などの海外で、お土産物として売られる偽物らしい。

「何十万円かと思ったら、調べてみると偽物で、残念だった」ことを職場で話したところ、
筆者より随分若い人から言われたのが、

この記事冒頭の、
「偽物でよかったですね。形見と、ずっと、一緒にいられるじゃないですか」
である。

たしかに、筆者が、仮に将来金に困ったり、腕時計資金が欲しくなったりしたとき、その銀貨に価値があったら、売り払っているかもしれない。
しかし、実際には偽物で、市場価値の全くない、あの「銀ですらないコイン」は、筆者の人生が終わるまで、ずっと一緒にいられる。

本物の銀貨であることに、こしたことはない。
さりとて、形見としては、祖父を思い出すための品としては、
そのコインが「本物の1円銀貨」かどうかに、関係なかった。
これは、最初から「本物の祖父の形見」の一つなのだから。



そう悟ってから、筆者は、偽物=悪、と潔癖症的に、あるいは短絡的には考えなくなった。
他のモノ、もちろん、趣味の一つである腕時計でも。


腕時計は、偽物とは切っても切り離せない。
その出自である懐中時計の時代から、偽物はあった。

だが、「時計の歴史を200年進めた男」アブラアン・ルイ・ブレゲは、自身の作品の偽物のうち、高品質なものは褒め称えたという。


筆者は、あえて偽物を買い求めようとは思わないが、仮に自分の所有する腕時計に、偽物が混ざっていようが、
どうでもいい。

その腕時計が、気に入って、納得して入手したのであれば、
その腕時計にパッションを感じでいたのであれば、それは筆者にとっての本物である。


ちょうど、
新選組局長近藤勇の刀は、虎徹の偽物だったとされる。
しかし、「近藤勇の虎徹」であったのと似ている。


また、他者の付けている腕時計を見ることも、筆者の喜びの一つだが、
その腕時計が、本物か偽物かは、どうでもいい。
その人に似合う腕時計は、すべて善である、とさえ思う。
時計に罪はない。悪いのは人だ。

2020031805041639f.jpg


202002231416513d4.jpg


上の2つの写真は、本物のセイコーの腕時計である。
そして、どちらもオメガの模倣である。

1つ目は、明らかにオメガ・スピードマスター・デイトのデザインを模倣している。(もちろん、微妙な差異があるので、法的にはセーフな範囲だろう)

2つ目は、名前に「スピードマスター」を名乗っていた。以前の記事にも書いたとおり、セイコーに問い合わせたら、「偶然」とのことだった。

クロノグラフの代表作と、偶然、名前が重なるはずがない。

どちらの例も、我が国が、他のアジア圏について、知的財産面で馬鹿にできない証左である。
(そもそも、日本も国産時計産業勃興の頃は、すべて欧米のコピー商品だった。)

と、同時に、筆者にとっては、先程の腕時計は、どちらも本物である。


では、法的にはセーフな範囲なら、いくらでも、模倣してもいいのか?
あらたな、疑問点はまた、別の記事で書くことにする。
関連記事

コメント

非公開コメント

No title

こんにちは。

偽物について考え出すとキリがないですね。
面倒くさいですが、結局は知的財産権について勉強することになると思います。
またフェイクとオマージュの境界も個人差があり難しい問題です。

私も偽物を使う人の人格を否定することはありません。
しかしインド製の偽物セイコー5を売っているお店に出会った時、その店の
全ての商品が色褪せて見えましたし、店主が不誠実に見えました。
知らずに売っているなら店主のモノを見る目がないわけですし、分かって
売ってるなら尚更悪い。

モノをつくるときには、その人の思想が入り、それがカタチになります。
しかし偽物はカタチありきで、モノに対する思想はない、あるとしたら
効率的に製造することと、いかに似せるかだけです。

Re: No title

こんばんは!

先日のアカツメさんのブログに、かなり影響を受けて書いていた記事なので、コメントいただけて、嬉しいです!

知財法というより、日本を含むアジア各国の法感情がグローバル社会に合ってないのが、未だに偽物が盛んなそもそもの原因と思うんですよ。

セイコー5には、元々デイトジャストのパクリデザインや、セイコーの上級ラインのセルフオマージュもあるので、
それがさらに、インド製の偽物だとしたら・・・
何重の偽物なのか、興味をかきたてられます。